クマ笹は主に本邦高原地帯、北海道の山野に群生するタケ科の植物で、本州では、標高1000~2000mの高山に群生しています。
このクマ笹は大変生命力の強い植物で、60~120年間枯れずに地中の成分を吸収し続けます。そして、雪の中でも枯れずに耐え抜くほどの、寒さに対する抵抗力をもっています。特に高山の厳しい環境で育ったクマ笹は葉緑素や多糖体などの含有量 が多く、医薬品の原料として最適です。
クマ笹と動物の関係も深く、特に野生のほ乳動物はこれを主食にし、冬の食料として越冬能力をつけ、繁殖力を旺盛にしているといわれます。
熊は、冬になると冬眠しますが、その前に沢山のササを食べ、冬眠に備えます。エサとしては高カロリーのものを好んで食べますが、このときクマ笹もたくさん食べるといわれます。これは、冬眠中は一度も排便を行わないため、腸や血液が老廃物で汚れるのを、クマ笹で解毒し、防ぐためだといわれています。そのほか猫がクマ笹を噛んでからだの変調を治すといわれています。
このように、笹は動物においても、生命をささえる重要な植物です。
漢方でも、竹葉、竹茹(ちくじょ―たけのアマ皮)、竹瀝(ちくれき―タケの精油)などを生薬とする処方がたくさんあり、解熱、解毒、セキどめ、止血、消炎など多くの作用があることが分かっています。
日本でも、古くから民間薬として「クマササ(隈笹・熊笹)」と称する生薬が売られており、火傷、かみ傷、吐血、喀血、下血などの治療や血尿剤として用いられました。また熊笹の用法、効能として、「口が臭いとき葉を煎じて飲む。血の道には紅花と一緒に煎じて飲む。タムシにはナンテンの葉とともに煎じて、たびたび洗う」などが記録されております。
私たちの健康の基本は、健康的な血液と生きいきとした細胞。
人間の体は60兆個にも及ぶ細胞とそれを包み込む血液で構成されています。健康な体を維持するためには、健康な血液と生き生きした細胞であることが、とても大切です。
人間の血液のヘムとほぼ同じ形の鉄クロロフィリンを含むクマ笹抽出液。
クマ笹が持つ葉緑素は、人間の血液の血色素であるヘム(ヘモグロビンの一部)と、その化学構造式がほとんど同じです。葉緑素も、血液のヘムも、その基本構造はポルフィリン環といって、真ん中に穴の開いたような構造をしています。ポルフィリン環の中心にマグネシウムが入ったものが葉緑素であり、鉄イオンが入ったものが人間の血液のヘムです。
マグネシウムイオンをある工程で、鉄イオンに置き換え、人間の血液のヘムとほぼ同じ形にしたものが、クマ笹抽出液です。
1.葉緑体(Chlorophyll)
葉緑素は、植物の葉の中に含まれている緑色の色素で、太陽光線のエネルギーを吸収して、空気中の炭酸ガスと根から吸収した水分とで、炭水化物をつくりだします(炭酸同化作用)。興味深いことに、この葉緑素は人間の血色素であるヘム(ヘモグロビンの中心構造体)と化学構造がほとんど同じです。そして、厳しい環境の山に群生するクマ笹には、この葉緑素が非常に多く含まれています。
「健康の医学小辞典」藤井尚治 著 績文堂刊
2.多糖体(Polysaccharide)
多糖体とは、一般に単糖が鎖状につながった高分子で、分子量は数万~数百万に達します。活性のある多糖体は、細胞膜や結合組織を形成する構造多糖類であり、デンプン、グリコーゲンのような貯蔵多糖類と異なり、カロリーはありません。
笹多糖体は、構造単糖としてキシロース、アラビノース等のペントース(五炭糖)、ガラクトース、グルコース等のヘキソース(六炭糖)をもち、特にヘキソースにくらべ、ペントースが数倍多いことを特長とし、三重らせん構造を有しています。
多糖体には免疫賦活作用があり、ガンの予防、治療にもちいられています。1960年代に入り、ガンの免疫療法の基礎研究がさかんに行われるようになり、植物由来多糖体の抗腫瘍性に関して、相次いで報告されました。そのうち、笹、菌類(サルノコシカケ、シイタケなど)、地衣類、酵母、細菌などの多糖体が、生体自身の免疫活性を上げることによって、抗腫瘍性を発揮することが、発表されています。
「癌治療の新たな試み」螺良英郎 監修 医薬ジャーナル刊
3.リグニン(Lignin)
クマ笹の有効成分の一つに、リグニンがあります。木質部の細胞壁に沈着し、木化細胞壁の主成分となっている高分子化合物のことで、コニフェリンなどが重合したものと考えられています。
クマ笹には、葉緑素、多糖体、リグニンなどのほか各種有効成分がバランス良く豊富に含まれています。
この他にも、いまだ未知の成分が多く含まれ、これが相乗的に作用して効果 を発揮します。
クマ笹の効用は、極めて広範です。これはその作用機序が生体の最も重要な機能の一つである、免疫機能をはじめとする生体機能の活性化に深くかかわることに由来するものと考えられます。
1.細胞賦活作用 諸臓器機能促進、組織抵抗力増強、細胞膜安定化(※1)、新陳代謝促進、強精
2.免疫賦活作用 細胞膜修復、細胞間識別強化、抗体産生強化、抗アレルギー(※2)
3.体液代謝改善作用(血液浄化作用) 解毒代謝機能亢進(※3)、利尿、脱コレステロール、脱臭
4.造血作用 骨髄刺激、造血素材
5.創傷治癒促進作用 肉芽形成促進、粘膜保護、抗炎症(※2)、止血
6.抗ストレス作用 食欲増進(※4)、抗疲労(※5)
7.殺菌・制菌作用
8.鎮咳作用
9.腸蠕動促進作用
10.末梢血管拡張作用(※1)
※1.大泉高明ら:昭和医学会雑誌, 第49巻, 第3号
※2.大泉高明ら:昭和医学会雑誌, 第48巻, 第5号
※3.柴田丸ら:日薬理誌, 72, 531(1976)
※4.久保山昇ら:薬理と治療, 11,(6)2065(1983)
※5.田村豊幸ら:薬理と治療, 12,(12)5379(1984)
クマ笹関連参考文献
クマ笹と民間薬
赤松金芳:和漢薬、p649-650、医歯薬出版、東京, 1970.
クマ笹と染色
大泉高明:クマ笹抽出液を用いた各種繊維の染色について。富士竹類植物園報告 40:118-127, 1996.
抗炎症作用
大泉高明、白崎恭子、田畑貴子、中山貞男、岡崎雅子、坂本浩二:クマザサ抽出液に関する薬理学的研究―抗炎症作用、貧食能に及ぼす影響について―。昭医会誌48:595-600, 1988.
抗潰瘍、抗ストレス作用
Ohizumi T, Nakayama S, Oguchi K: Effects of Sea senanensis rehder extract (SE) on stress or ethanol induced gastric lesions in rats. Showa Univ J Med Sci 3 : 133-141, 1991.
抗疲労効果
田村豊幸、藤井彰、小林寿美:臨床薬理に関する研究(第9報)熊笹葉エキス(LE)の抗疲労効果に関する研究。薬理と治療12:5379-5383, 1984.
消臭効果
重野謙次:笹の葉によるいか内臓の悪臭防除効果について。第8回大気汚染研究全国協議会大会講演、横浜市、1967.
抗菌効果
グュエン・ヴァン・チュエン、倉田忠男、加藤博通:クマザサの防腐効果について。J.Antibac. Antifung. Agents 11(2):69-75, 1983.
歯周病治療効果
佐藤寿祐、土屋昭夫、鴨井久一、他:クマザサ原形質溶液の歯周治療への応用。日歯周誌28:752-757, 1986.
糖尿病治療効果
菅野裕子、津田誠、三澤美和、柳浦才三:糖尿病患者におけるクマ笹エキスの効果。Proc. Hoshi Univ. 36:25-38, 1994.
葉緑素関連参考文献
血液活性化作用
森下敬一、他:Chlorophyll 誘導体の血液組成因子に及ぼす影響について。(第7報)血液酸素吸収に関する検索。新薬と臨床8(3):267-276, 1958.
抗アレルギー・抗アナフィラキシー作用
進藤宙二、他:Chlorophyllin の補体作用阻止効果および抗アナフィラキシー作用について。アレルギー14(9):471-479, 1965.
コレステロール低下作用
辻啓介、辻悦子、鈴木慎次郎:植物性色素がシロネズミの血清および肝臓コレステロール値に及ぼす影響。栄養学雑誌33:153-159, 1975.
抗疲労作用
稲垣克彦:葉緑素について。新薬と臨床2:287-298, 1953.
消臭作用
赤塚陽一:鉄クロロフィリンナトリウムの消臭効果。月間フードケミカル11:106-110, 1995.
肝機能改善作用
鬼川太刀雄、他:鉄クロロフィル誘導体の肝機能に及ぼす影響について(第一報)色素排泄機能に及ぼす影響。東京医事新誌68(10):21-22, 1951.
腎機能改善作用
押部信男、山川宏:腎疾患患者に於けるクロロフィリンの腎機能に及ぼす影響。内科の領域3:504-509, 1955.
血圧降下作用
寺田文次郎、田村豊幸:新しいカリウム塩型水溶性葉緑素(Sungreen)に関する薬理学的研究。生体の科学4(5):212-221, 1953.
皮膚疾患治療効果
五十嵐良一、佐藤良夫:銅クロロフィリンナトリウムの経口投与による主として皮膚疾患に対する臨床的検討。薬物療法12:891-896, 1979.
創傷治癒効果
Bowers, W.F. : Chlorophyll in wound healing and suppurative disease. American J, of Surgery 73 : 37-50, 1947.
クマ笹の抗腫瘍活性に関する文献
山本郁夫、他:杏林医会誌 2, 73 1971.
「笹抽出成分の抗腫瘍作用に関する研究」
金森政人、他:杏林医会誌 4, 183 1973.
「笹抽出成分の抗腫瘍作用に関する研究」(第2報)
飯尾雅嘉、他:九大農 学芸雑誌 23, 113 1968.
「笹多糖類の制癌作用」
Shigeo Suzuki et al. : Chem. Pharm. Bull., 16(10) : 2032, 1968 Studies on the Anti-Tumor Activity of Polysaccharides.
黒木睦彦、他:ガンを治す知恵(新栄養 編)
久保山昇、他:日薬理誌 77:579, 1981.
「熊笹葉(LE)の抗腫瘍作用に関する研究」
Waro Nakahara et al. : Gann., 55 : 283, 1964. The Host-mediated Antitumor Effect of some Plant Polysaccharides.
Junichi Sugaya et al. : J. Antibiotics, Ser. B 16(6) : 387-397, 1963. On the Anticancer Active Polysaccharide Prepared from Bamboo Grass.
Sumio Sakai et al. : Gann., 55 : 197, 1964. Anticancer Effect of Polysaccharide Fraction Prepared from Bamboo Grass.
黒木睦彦:第16回、第18回、日本薬学大会
「笹抽出液成分による抗癌剤の試製および薬理作用に関する研究」
大島光信、他:日本耳鼻、66(10) : 1316, 1963.
「笹抽出薬効物質の悪性腫瘍への臨床使用経験」
Belkin et al. : Cancer Res., 19 : 1050, 1959.
Roe, E.M.F. : Nature, 184 : 1891, 1959.
Sakai et al. : Gann., 55 : 197, 1964.
Sugayama et al. : J. Antibiotics, 19 : 132, 1966.
Nakahara et al. : Gann., 55 : 283, 1964.
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田村豊幸、他:日大口腔科学、6(4) : 335, 1980.
Chihara et al. : Nature, 222 : 687, 1969.
Chihara et al. : Cancer Res., 30 : 2776, 1970.
田村豊幸、他:第52回日本薬理学会
「熊笹葉エキスの抗腫瘍作用」